【2006年8月16日】

コンピュータを使ったスピーカーの測定と設計(第三回)
praxisによる測定の準備


■ ネットワーク設計シミュレーションに必要な特性

PRAXIS PRAXIS
前回まででT/Sパラメータにより最適な容積の計算などが終わっているので、これに合わせて箱を作ります。
(今回は、作る替わりに六本木工学の7リットルのエンクロジュアキットを使う事にしました)
スピーカーのネットワークをシミュレーションする為には、箱に入れた状態のスピーカーユニットの位相と周波数特性(位相とSPLカーブ)とインピーダンスカーブの測定が必要になります。
この測定には今回は、praxisを利用しますが、この測定自体は他の測定システム(CLIO、DAAS 3L、DLSA Proなど)でも測定が可能です。

当たり前ですが、どの測定システムを利用した場合でも、ほぼ同じ測定結果になります。
標準で付属しているマイクに測定システムによっては校正値が付属していない物もありますが、20kHzまでの範囲では、マイクの特性がほぼフラットな場合が多い(松下電子部品製のECMマイクカプセルの一部では20kHzまでほぼフラットな特性を標準で出しています)ので、まずネットワークの設計で問題になる事は無いと思います。
praxisのマイクは、標準の物でも校正データが付いており30〜40kHzまで測定する場合にもSPLグラフに関しては比較的正確な特性が得られます。
(praxisのシステム自体は最高で192kHzのサンプリングレートが利用できるので96kHzまで計れる事になりますが、さすがにここまで計るには標準のマイクでは厳しいです)

右上の画像は、praxisを利用したツィーターの計測結果で、左側の映像がSPL(周波数、位相特性)で右側の映像がインピーダンスカーブです。
周波数特性の計測には96kHzのサンプリングレートで行っているので、特性は大体48kHzまで計れています。

■ 計測システムpraxisの概要

praxisは主に、AudPodと言うUSB接続でPCと接続される機器とマイクとpraxisに対応したサウンドカードの3つのパーツから構成されます。
AudPodは、マイクとハイインピーダンスプローブ接続用端子があり主に内部には低ノイズのアンプ回路が収められています。
また、AudPod自体がUSB接続によるpraxisを製品版として動作をさせる為のキーになっており、AudPodを接続する事によって、praxisは製品版として動作します。
(praxisはAudPodを繋がない状態でもDEMO版として動作し、T/Sパラメータの測定、スペアナ機能等はAudPod無しで利用する事が出来ます)


WinISD WinISD
WinISD


praxisの測定用マイク(写真上の段左)は、ECMを使っているが校正データを持っている為に48kHz程度のかなり高い周波数まで測定が可能、マイクは1個づつシリアル管理され、特性を補正する校正データがマイク1個づつ測定されて付属している。

AudPod(写真上の段右)にはローノイズマイクプリ等のプリアンプが内臓されている。
AudPodの入出力は、後ろ側がサウンドカードとの接続端子、前にマイク入力とプローブ入力が2系統あり、これに加えてアンプへの出力が付いている。

サウンドカードとAudPodの入出力はラインレベルで行われる為にサウンドカード側のマイクプリなどは利用しない。
(マイクプリはpraxisに内臓されているローノイズマイクプリが利用される)

■ 擬似インパルス特性を利用した周波数特性の測定

praxisに限らず、擬似的にインパルス特性を計る事の出来る測定器を利用すれば、部屋の壁等の反射成分を少なくした特性の測定をする事が可能です。
この方法を利用する事で、無響室で測定するのと同じような綺麗な特性を得る事が出来ます。

部屋の反射成分が含まれると周波数特性等は大幅に乱れてしまいます。
この為に、スピーカーを制作する場合の測定には、この擬似無響室測定は非常に便利な測定方法だと思います。
現在、この方法の測定が出来るシステムは多くなって来ており、特に個人や小規模の環境で無響室が用意できないと言う場合には非常に便利です。
また、この方法では周波数特性(SPLグラフ)と同時に位相も求められると言うメリットもあります。
位相と周波数特性が分かるので、ネットワーク合成シミュレータでネットワーク回路でのクロスオーバーの合成シミュレーションが出来る訳です。

これには、MLSやCharp等の信号を使い、インパルス特性を擬似的に演算で求めフーリエ変換等の変換を使ってpraxis等のソフトがコンピュータで計算してくれている訳ですが、これは一見凄く難しく特殊な事をしている様に見えますが、現在の方式の携帯電話(CDMA等現在一般的なスペクトラム拡散方式の物)やデジタルで行われる画像処理等にも広く使われている技術です。
ただ、こう言った機器は完全に自動化されているので、ユーザーはどの様な技術を使っているのか意識せずに使う事が出来ます。
これが、こう言った測定ソフト等では一部、手動でこの操作が出来るようになっている訳ですが、技術自体は一般的な物ですので、こう言う特殊な方式だから特性が悪いとかそう言った事はありません(各分野で広く実用化されている技術です)。

そして、携帯電話の動作原理が分からなくても、携帯電話が使えるように、praxisも変換に関する数学的な知識が無くても利用できます。
そんな訳で、ここでは、praxisを使ってどの様な操作でネットワークを作るのに必要な特性を求める事が出来るのかを解説したいと思います。

■ 特性の測定の準備

一般的にスピーカーやスピーカーユニットの特性は1mで1W入力時での特性が掲載されていますが、これは他のスピーカーとの音圧レベルを含めた比較をする為に条件を揃える意味で、この様な同じ距離、同じ入力信号レベルで計られています。
しかし、今回はスピーカーのクロスオーバーを作る事が目的なので利用するツィーターとウーファーの測定する条件が揃って居れば良い訳で、この一般的な測定条件で計る必要はありません。

特に、擬似無響室特性を計る為にはスピーカーから一番近い壁から反射した信号がマイクに到達するまでの時間までの成分しか使う事が出来ません。
この為にスピーカーがマイクから遠いと、天井が高くより広い部屋で測定する必要が出て来てしまうので、そんなに広くない部屋ではなるべくスピーカーの近くで計る方が有利と言う事になります。
(実際は壁よりも床がスピーカーから一番近い面になると思います)
では、非常に近くで計ったら良いのかと言うと、近過ぎる場合、ちょっとした距離差で高域の特性が大幅に変わる可能性が出てきます(低音域のみを測定するにはこの方法は有利)。

そんな、訳で大体スピーカーの口径の倍ぐらいの距離を離す必要があり、2wayの場合最大でも20cm程度までのウーファーしか利用しないと思いますので、僕は小型2way等の測定は50cmで計っています。

まず、マイクとスピーカーのセッティングを行います。
マイクはツィーターの高さに合わせ距離は、50cmで測定します。


WinISD WinISD

マイクはツィーターの高さに合わせて、ほぼスピーカーから50cmの位置に置きます(メジャーなどで計って置きます)。
条件をなるべく揃えて何回も計ると言う事であれば、この距離をなるべく正確にした方が良いですが、ネットワークのシミュレーションに使うだけであれば、利用するウーファーとツィーターで条件が揃って居れば大体で構いません。

■ 測定に用意する物

今回は、praxisにより周波数特性(位相、SPLグラフ)とインピーダンスカーブの測定を行います。
praxisは、一番最初にインストールした時にキャリブレーションと言う操作を行う必要があります。
これは、サウンドカードやハイインピーダンスプローブのバラつき等を補正する為の操作ですが、この操作は今回は終わっている物として解説します。
この部分のpraxisの初期の導入の仕方などは別の機会に解説を行いたいと思います。

また、測定のやり方等は操作方法は違っても基本的に同じ様な方式で測定を行っている機器では同じ様な方法で測定を行います(基本的に考え方は一緒です)。

praxisでインピーダンスの測定に当たり、測定用の抵抗が必要になります。
この測定用の抵抗は標準で10Ωなので、10Ωの抵抗を用意する事にします。
抵抗は、1/4Wの金属皮膜抵抗の利用が推奨されています、抵抗は大体秋葉原等の電気街で10円程度で入手できると思います。
金属皮膜抵抗の一般的な精度は5%ですので、5%の物で構いません。

また、praxisでインピーダンスの測定を行う場合はpraxisに付属のハイインピーダンスプローブを利用します。
今回の測定には直接関係ありませんが、このハイインピーダンスプローブ自体も自作が可能です。
ハイインピーダンスプローブは、AudPodへの接続側がステレオのミニジャックになっており反対側がワニ口のクリップ(2つ)になっています。
内部には47.5kΩの抵抗が直列に入っています。
一般的に47.5kΩの抵抗は売られていないので、praxis側の設定を変える事で47kΩや48kΩに設定を変えて利用する事も出来ますし、また直列に47kΩと500Ωを繋げる事で47.5kΩを作ってもさほど問題無いと思います。

六本木工学研究所では、このハイインピーダンスプローブ用に47.5kΩの抵抗を特注で依頼し生産した物があります。
精度は、5%の物と1%の高精度な物と2種類用意して有りますので、ハイインピーダンスプローブの製作にこれを利用するのも良いと思います(解説の機会があったらこの事についても解説したいと思います)。

今回、測定まで解説しようと思いましたが、準備の説明が大分長くなってしまったので、praxisによる測定を何回かに分けて解説したいと思います。
次回は、実際の測定について解説したいと思います。



□praxis(Liberty Instruments)
http://www.libinst.com/
□六本木工学研究所
http://www.ritlab.jp/


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